さよなら僕の思い上がり

◆さよなら、僕の思い上がり

物の整理や、家の片付けというのは
思い出の整理と似ている。

もう忘れてしまっていた、
記憶の片隅に合ったものを
思い出す、そんな瞬間だ。


小説を書きたいと思っていた。
物語を書きたい、作り上げたい、と。

「書く」ことが楽しみとなっていたのに
いつのまにかそれは重いおもしのような
勝手なプレッシャーとなっていた。

「おもしろくなきゃいけない」

これだけ時代の流れが速く、
結果も行動も求められる世の中で

ただなんとなく良い、
そんなんじゃダメだと思っていた。

自分がいらないものなんて
誰もいらない。

自分の手元にあった、
使い古したそれらは
色あせて魅力を感じなくなっていた。

古いものたちの対峙は
自分の想い出との対話なのかもしれない。

頭の中に浮かんできたアイディアが
次第にどんどんと進んでいき、
現実に起こっていることなのかと錯覚する。

形にするのはさぁいまだ、と
ゴングをならされているようだ

哀しみをしり、いとおしさをしり、
冷たさをしり、冷酷さをしる。

まるで初めて味わったかのように、
痛く冷たいものもあれば、

それは昔から知っていて懐かしく
嬉しくほころぶ幸せのかたちもある。



思い出と対話しながら
涙ながらに別れを告げたら

少し場所をうつして
哀しみを忘れてみる

さぁまた、と向き合う瞬間に
ひらめきが宿る

「僕のいらないものを必要としている人がいるかもしれない」

僕には未完成の未熟品でも
それを喜んでくれる誰かはいるかもしれない。

もう今の僕には必要はないけれど、
これを待っていた!と喜んでくれる
少年がいるかもしれない。

完璧な完成品でなくとも、
それを喜んでくれる誰かがいるかもしれない。

こんなにガラクタで埋め尽くされていて
窮屈で息苦しくこの部屋にも、
誰かに分け与えられる、
誰かに差し出せるものがある、
ということが
僕を少し強くした

明日になれば忘れてしまうかもしれない
この感情を、

忘れないようにしよう、ではなく

忘れてもいい、また思い出すから、と
そっと手を離せることが自由なのかもしれないな、と思った

それが僕の思い上がりでも
僕の大切な想いだ。

さようなら、僕の思い上がり。
さようなら、僕の大切な想い。








あとがき---------


どこまで実話で、どこまでが空想か分からない、
そんな「リアル」に基づいた、でも空想の世界を
描こうと思いました。

構想はあります。
出来上がっている部分もあります。

なんとなくの決着もある。

あとは手を付けるだけ。

時は来た、さぁ始めよう、と音が鳴る

あなたにとっても、
新しい一日を。